Museums in Chiba
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MUSEUMちば千葉県博物館協会研究紀要<第32号>
2001年3月
千葉県博物館協会発行
【展示報告】
「カエルのきもち」を仕掛ける ―来館者の心をくすぐる展示開発―
千葉県立中央博物館 山口 剛・大木淳一・浅田正彦
1 はじめに
 千葉県立中央博物館では、平成11年7月3日から9月5日にかけて開館10周年記念特別展「カエルのきもち―グッズから環境問題まで―」を開催した(注)。この展覧会のテーマは、「カエルの身になって身近な環境を見直すこと」であり、かつてはどこにでもいて人と様々なかかわりをもっていたカエルがいなくなっている現状を多くの人に認識してもらい、身の周りの環境のありようを一緒に考えることを目的とした。特に、カエルと接する機会がほとんどなくなってしまった今の子ども達に、ちょっと昔はあたりまえのように身近にいて、昔の子ども(今の大人)はカエルといろいろな思い出をつくったことを知って欲しかった。そのためには、親子でこの展覧会に訪れ、見て、感じ、話し合い、そして、野外へカエルを探しに行きたくなるような企画や演出が必要であった。また、この目標を達成するために展示室を細やかに演出するばかりでなく、効果的な展示解説や展示室へ誘導するための演出、関連する講演会・観察会・演奏会、そして戦略的な広報活動を行った。ここでは、これらの工夫や仕掛けの紹介を交えながら、この展覧会の全体像について述べてみたい。

2 展示
 展示は、「人はカエルをどうみているか」、「カエルってどんな生き物」、「カエルとのかかわり」、「カエルの身に起きていること」の四部構成とした。各コーナーの配置と主な展示物については図1と表1を参照していただきたい。
図1 特別展開場の見取り図
図1 特別展会場の見取り図
図中の番号は表1の番号に対応する。
縦と横の比を若干変えて表示している。


 この展覧会の意図を観覧者に伝えるために、展示室に観覧者が入ってから、何を見て、何を感じ、気持ちがどのように変化していくかを常に意識し、ひとりよがりな展示にならないように最大限配慮した。そのために各コーナーごとに伝えたいことは何かを明確にして、それが十分伝わる効果のある展示創りを目指した。表1に示した展示のねらいと演出にはこのような意味がある。以下、いくつかの展示について詳しく述べる。

(ガマ博士)
 各コーナーの始めには、ガマ博士というキャラクター(80p×50p程度のパネルで吹き出しのセリフがつく)を登場させて、コーナーのテーマを簡略に表現させた。これは、次のコーナーに移るときに話題が変わるということを十分に意識してもらい、多岐にわたる展示の内容で観覧者が混乱することを避けるためである。各コーナーの始めにはタイトルパネルなどがあるが、それだけでは特に子ども達には十分に伝わらないと考えたからだ。ガマ博士の話は、できるだけ短く、わかりやすく、しかも親しみのあるものとし、小学生の3〜4年生であれば自分で読めるように、低学年でも大人が読んであげれば理解できるようにした。

表1.展示構成
No コーナータイトル ねらい 主な展示物 演出
人はカエルをどうみているか
1-1 ガマ博士の挨拶 案内役であるガマ博士の登場 ガマ博士のイラストパネル ガマ博士に親しみをもってもらうために「〜なのじゃ」口調で言葉にリズムを持たせた。また、子供の身長を考慮しガマ博士と目が合うように低い位置に取り付けた。
1-2 カエルの顔 カエルの世界へ導く 千葉県内に生息するカエル13種類の正面顔の写真パネル 外から展示室の中をのぞいた人がカエルと目があって展示室に入りたくなるように、写真の大きさと配置に配慮した。
1-3 カエルコレクション 人がカエルにいだくイメージの多様性の紹介 縄文時代から現代までのカエルに関するグッズ 各コレクターのコレクションに対する思い入れを、コレクションを整然と並べたり、マネキンに着せたり、隙間無く埋め尽くしたりといろいろな方法で展示することによって表現し、楽しく見られるようにした。
1-4 河鍋暁斎の蛙 「人はカエルを見つめ、カエルもまた人をみている」というメッセージを暁斎の絵により伝える 幕末の画家、暁斎のカエルを題材にした作品(写真複製) 近づいて見られるように展示し、解説パネルはわかりやすく、しかも暁斎に親しみがもてるように作成した。
カエルってどんな生き物
2-1 カエル学者の部屋 カエルに関する生物学的なトピックスの紹介 カエルグッズ、カエルの卵の発生段階図、カエルに関する文献など 展示ケース内をカエル学者の和風の部屋にアレンジし、カエルに関する生物学的に重要なキーワードを掛け軸にし、それと関連するカエルグッズをいっしょに展示することによって難しいトピックスをわかりやすく、しかも楽しく理解できるようにした。
2-2 カエルの歴史をたどる カエルという分類群の理解 両生類の系統発生図、票体など カエル各科のイラストや写真を貼った系統樹の大きなパネルと本物のカエルの液浸標本をいっしょに展示し、できるだけ視覚的に全体像が理解できるようにした。
2-3 あなたの疑問に答えます 素直な疑問への回答 カエルについての質問と答えを貼った掲示板 質問事項を色紙に印刷し、ボードへ画鋲で貼りつけることで一般の人がいだく素朴な疑問の雰囲気を出した。
2-4 カエルの名簿 世界のカエルの多様性を実感してもらう 世界中のカエルの学名を印刷した紙とカエルの写真(コルトン) 世界のカエルの学名を全て連続紙で印刷し、プリンターから頭上へ舞っていることで種類が多いことを表現。写真は綺麗な色のカエルをコルトンで紹介し、頭上に舞うプリンター用紙のために通路が暗くなったことを効果的に利用した。
カエルのかかわり
3-1 カエル体験 カエルに関する思い出の再発見と共有 2,500人におよぶカエルの思い出アンケートの集計結果を示すパネルなど 印象深かった思い出を様々な大きさの短冊(A0〜A4用紙)で紹介(天井に近いほど用紙サイズを大きくした)。一部にイラストをはめ込みメリハリをつけ、つい読んでしまうようにした。
3-2 海を渡る牛蛙 人により米国から持ち込まれたウシガエルとその餌であったアメリカザリガニの歴史の紹介 ウシガエルの捕獲道具・捕獲から出荷までの様子のビデオや写真など ウシガエルがつい最近までに食料として養殖・捕獲・加工・輸出されていたことを、使用されていた道具と実際にそれらを使用してカエルを捕獲しているビデオを同時に上映することで実感してもらえるようにした。
3-3 解剖教材史 学校でのカエルの解剖の歴史の紹介 教科書、解剖器具、学校の机や椅子など 昔の記憶を呼び起こしてもらうために、昔の小学校の理科室をイメージした空間を創りだした。
3-4 カエルの絵本 ゆっくりとカエルに関して思い出を巡らせてもらう カエルにまつわる昔話、絵本、グッズ 椅子に座ってのんびりとできるようにした。
3-5 座談会ビデオ カエルの魅力をより深く紹介 カエル好きな人達による座談会のビデオ 興味ある人がゆっくりと鑑賞できるようにした。
3-6 田んぼのカエル 田んぼに生息する身近なカエルの紹介 田んぼに生息するカエルの写真、レプリカ、トーキングカードなど あのカエルは、あのオタマジャクシは何という種類なのか? その答えを自分で探せるように写真パネル、レプリカ、トーキングカードにより多角的に田んぼのカエルを紹介した。
3-7 植物連鎖 田んぼの植物連鎖の理解 カエルを食べる動物やカエルに食べられる動物の剥製、レプリカ、標本など カエルがちゃぶ台をかこんで餌である虫などをねらい、さらにこのカエルたちがもうひとまわり大きいちゃぶ台の上に載っており、それをタヌキや鳥がねらっているというように表現することでカエルをめぐる食う食われるの関係を「カエルの食卓」として直感的に理解できるようにした。
3-8 カエルのうんこ うんこの内容物から植物連鎖の理解 カエルやカエルを食べる動物の排出物など うんこは子どもが特に興味を示すものである。地面に落ちている感じと子どもに見やすくするために低い展示ケースを作った。
カエルの身に起きていること
4-1 U字溝に見立てた通路 U字溝にはまったカエルの気持ちを実感してもらう U字溝に見立てた通路 通路の隅にカエルのうんこを展示し、それをしゃがんで見た低い視線から小さなガマ博士からの『上をみてごらん』の指示で、いきなり天井を見上げさせ、驚きとともに深い溝にはまったカエルの気持ちを味あわせた。
4-2 カエルのジャンプ力くらべ カエルがジャンプしてもU字溝から脱出できないことを実感してもらう カエルがジャンプできる高さを10倍にして表示 実際にジャンプができるようにした。
4-3 田んぼのカエルの危機 身近なカエルが減少する理由を理解してもらう カエルが減少する原因である圃場整備による乾田化や自動車による轢死の写真、奇形カエルの標本など 本物のU字溝にカエルのレプリカを置いたり、自動車によるカエルの轢死の写真を本物のタイヤにより轢かれたように見えるよう展示するなど、カエルが減少する原因が一目見ただけでもわかり、それから詳しい解説を読むというように配慮した。
4-4 深さ60cmのU字溝 カエルを減少させる原因の象徴 圃場整備に使われている深さ60cmのU字溝 中央に設置し照明をあてて浮かび上がらせるとともに、触ったり、中に入ったりできるようにした。
4-5 危機に瀕している世界のカエル 世界的にカエルの減少が注目されていることを紹介 世界的にカエルが減少している現状を紹介するポスター、写真パネルなど 特に南米コスタリカで絶滅が危惧されている美しいオレンジヒキガエルの話題をとりあげた。コスタリカの位置を示した世界地図の示して理解を助けた。
4-6 私たちにできること 鑑賞者の意見表明の場 カエルの保護活動などをしている人々の写真、自由に書き込みができる白いボードなど ボードにメッセージが埋まったら展示室内の壁に貼りつけていき、様々な意見があることを知ってもらうとともに、自分でも書いてみようという気持ちを起こしてもらうようにした。
4-7 帰っていくガマ博士 展覧会の終わりと野外への誘いというメッセージ ガマ博士のパネルと山道を歩くヒキガエルの写真パネル 展示室を出ても余韻が残るように、ガマ博士の挨拶と山道を歩くヒキガエルの後姿の写真とだけのシンプルな展示にとどめた。


(カエルの名簿)
 世界には四千種あまりのカエルが生息している。しかし、一言で四千種といってもその多さを実感しづらい。そこで、「カエルってどんな生き物」の中で世界中に生息するカエルの種名(学名)を全て連続紙に打ち出して展示することにした。通路状の空間をつくり、両側の壁には特徴あるカエルの写真をコルトンで展示し、その間の天井部分に、カエルの種名が書かれた連続紙がのたうちまわるという展示にした。連続紙は本物のコンピュータのプリンターから打ち出されているように取り付け、ガマ博士がタイプしたという設定にした。観覧者がこのトンネルを歩くことによって、世界のカエルの多様性を実感できることを期待した。

(小学校の理科室)
 「カエルとのかかわり」では、昔の小学校の理科室をイメージした空間を創りだした。ここでは、展示物を見て展開される観覧者同士の「会話」そのものを本展示の重要な一部と位置づけ、それを誘発できるように演出した。黒板には、カエルの内臓の配置と人の内臓の配置を対比した絵をチョークで描き、板張りの床の上には学校で実際に使用していた古い木製やスチール製の椅子や机を置いた。机の上にはカエルにまつわる昔話や絵本、グッズなどを置き、椅子にすわり自由に読んだり、触ったりできるようにした。教室の後にあたる壁には「カエルの思い出アンケート」に寄せられた思い出話の抜粋を一部はイメージイラストを付けてパネルにしたものを貼った。高さ約6mの壁をいっぱいに使用し、天井に近いパネルは文字もイラストも大きくし、床に近づくにつれて小さくした。観覧者には、アンケートに寄せられた思い出話の中に自分と似た体験を見つけだしたり、全く異なった体験をしている人がいることに驚いて欲しかった。そして、このコーナーの一角には「カエルの思い出アンケート」の用紙と投函箱を設け、自分でもアンケート

図2 「カエルの身に起きていること」の展示風景
図2 「カエルの身に起きていること」の展示風景
手前にあるのは「深さ60cmのU字溝」、奥に貼ってある少年の写真の
下が「U字溝に見立てた通路」である。


に参加するといったように、この空間では少しのんびりした気持ちでカエルのことを思い出してもらえるようにした。
 「カエルの思い出アンケート」は、1998年6月から実施したものであり、この展覧会では1999年1月までに集まった2,568名分の回答をもとにしている。この結果の一部は、特別展に先行したトピックス展として展示した(1998年11月から1999年6月)。このアンケートは、この展覧会の企画のための貴重な情報源でもあった。

(U字溝のカエル)
 文字どおりカエルの身になってみる展示として工夫したのが、「カエルの身に起きていること」のU字溝に落ちたカエルのコーナーで
ある。現在、多くの田んぼでは圃場整備が行われ、排水用にコンクリート製のU字溝が設置されている。ジャンプ力が弱かったり、吸盤を持たない種類のカエルはこのU字溝に落ちると脱出できないのである。このことを実感してもらうために、実物のU字溝の展示の他に、その展示コーナーにいたる通路をU字溝に見立て、通路の壁と床をコンクリートに見えるように加工し、天井には「きみはみぞに落ちたカエルだよ」とつぶやく巨大な子供の写真を貼り、U字溝の底から空を見上げるカエルの気持ちになってもらった(図2)。
 さらに壁には実際にいくつかのカエルがジャンプした場合の到達点を10倍にして表示した。
 この展示は、観覧者がここにきてはじめて天井を見上げ、見下ろす子供に気づいてびっくりするようにしたかった。そこで、この前のコーナーの「田んぼの食物連鎖」の一部である「カエルのうんこ」の展示ケースをあえて低くつくり、下の方を向きながらこのU字溝の通路に進んだ後に、ガマ博士の「上をみてごらん」の指示で上を向くと、そこには大きな子どもの写真が見えるというように、観覧者の視線の動きを特に意識して創り出した。

3 展示解説とワークシート
 この展覧会では、展示をより楽しんでもらえるように、希望者には展示解説員(以後は解説員と記す)の解説を受けたり、子どもたちにはワークシートに答えながら展示を見てもらった。解説員やワークシートは、展示と観覧者をつなぎ、展示室の雰囲気を盛り上げ、観覧者の感じる「カエルのきもち」を最大化させるうえで欠かせない存在となった。

(展示解説)
 会期中、解説員が1回約20分間の展示解説をほぼ一日中(定時解説6回に加えて希望に応じた随時解説)行った。この解説は、展示をより理解してもらうという役割とともに、観覧者が自分自身のカエル体験を思い出すことを促すという役割も担うようにした。また、全ての展示を解説するのではなく、入口から展示室奥の「小学校の理科室」までを中心に行い(図1)、その後は自分たちだけで観覧してもらうことにした。これは、すでに述べたように、「理科室」で少しのんびりとして欲しいこと、この後の「U字溝に落ちたカエル」の展示のように解説してしまっては、かえってつまらなくなる仕掛けがあること、「カエルの身に起きていること」は自分自身の問題としてじっくり考えて欲しいなどの理由による。
(ワークシート)
 小学生が展示により興味を持つことができるように「カエルノート」というワークシートを小学校低・中・高学年向きの3種類作った(図3)。小学生ぐらいの子どもが展示室に入ろうとすると入口付近にいる解説員が声をかけてカエルノートについて説明し、参加の有無を尋ね、参加する場合には、年齢に応じたシートを渡す。参加者は、カエルノートの問題を解きながら展示を見る。それが終わると、解説員に答えを記入したカエルノートを渡す。解説員は丸をつけながら、疑問などに答え、最後に「ガマ博士」の手形がついた“カエル博士認定スタンプ”を捺し、ごほうびとしてこの展覧会のオリジナル絵はがきを複数枚渡した(この絵はがきは暑中見舞として利用してもらい、宣伝効果もねらった)。このように、解説員と子どもとの接点をつくりカエルに関する対話をできるだけ重視した。
 また、このカエルノートの制作にあたっては小学校の先生方に全面的に協力していただいた。千葉県総合教育センターの研修として現役の先生方にオープン直後に完成した展示を見てもらい、学芸員とともにカエルノートを作ってもらったのである。先生方が子どもの興味を引くポイントとして展示の中に見つけだしたもののなかには、展示をつくった側がそのような効果を予想していなかったもの
もあった。先生方との協力により、低・中・高学年という年齢に応じた適切で、わかりやすい表現の問題にすることができた。カエルノートは非常に好評で3種あわせて5,300枚配布した。

図3 小学校低学年用の「カエルノート」
実物はA4サイズで両面に印刷した。

4 展示会場の外の演出
 この展覧会では、会場の外の演出にも気を配った。中央博物館では常設展の見学は無料だが、特別展会場は有料である。したがって、来館者のうち少しでも多くの方に特別展に関心をもっていただくことがとても重要になってくる。今回は、博物館の入口から特別展を行っている展示室の入口までの空間を「カエルのきもち」展の導入部と位置づけ演出をした。まず、自動ドアが開いて建物の中に入るといきなり池がある(床に直径約6mの大きなイラストを貼り付けた)。そして、その中にはオタマジャクシやザリガニがおり、上には木の橋がかかっている。池から展示室に向かう導線上には大きなカエルの足跡が続いて、その先の会場入口の上部では大きなカエルが手招きしている、というように創った(図4)。
 常設展示の中にもカエルを展示してあるものが多くある。これらにも特別展の案内とともに注意を促す小さなステッカーを貼った。さらには、解説員はもとより展示室に出る職員は特別展仕様のネームプレートを着けた。
展示室のまわりで使用するボールペンなどもカエルにちなんだものを使う、ミュージアムショップでもカエルグッズを扱うなど、博物館の中はカエルだらけという状況をつくった。

5 広報とイベント
 この展覧会では、「カエルに興味がある人々」と「小学生とその親」を特に意識して広報活動を展開した。広報媒体としては、ポスター、チラシ、インターネットのウェブサイトなどを利用した。しかし、何といっても最も重要視したのは口(くち )コミである。この「カエルのきもち」という展覧会に興味をもち、期待する人たちを会期の前に少しでも増やし、その人たちの口づてで少しでも多くの人にこの展覧会の情報を伝えてもらうようにした。

図4 博物館入口から特別展会場までの見取り図

 まず、展覧会が始まる半年以上前の冬のうちに博物館の車道に面する塀に大きなカエルのイラストを一枚貼り付けた。そして、春になると塀の隙間から手や体を出すカエルのイラストを追加していった。これにより、カエルの展覧会を行うらしいという噂が博物館の周辺の人々を中心に広がっていったようである。展覧会が始まるとこのカエルのイラストをさらに増やし、博物館の入口まで来館者を誘導するサインとした。
 また、前年度末の平成11年3月14日には、この展覧会のプレシンポジウム「田んぼのカエルは今…」を開催した。このシンポジウムでは、カエルの現状について4名の専門家が講演を行った。カエルに関係した学会や研究会の会員、カエルの愛好家、県内の生物関係の教職員などの「カエルに興味がある人々」を中心に参加してもらい、参加者には平成11年7月3日から行われる特別展の趣旨やスケジュールを説明し、チラシやポスターの配布を依頼した(参加者 250名)。
 「小学生とその親」に足を運んでもらうために、学校関係者にも協力を要請し、博物館周辺の33の小中学校の全児童・生徒16,805名へのチラシを配布した。
 展覧会の初日と翌日には、それぞれオープニング・コンサートと記念講演会「カエルの道」を行った。前者は、カエルのスライド上映とギター演奏を交えたトークショーで、誰でも楽しめるようなものであり、後者はカエルの専門家による一般向けの講演会である。これらのイベントを呼び水として、会期の初めにより多くの観覧者を招き入れ、その評価を口コミで多くの人に伝えてもらうことが大きな宣伝効果を生むと考えたからである。この後にも、ラナフォン演奏会(7月11日)、親子の動物観察会「カエルに触ってみよう」(7月24日、9月4日)、講演会「世界のカエル・現場からの報告」(8月1日)、学芸員による展示解説「学芸員と展示をみよう」(毎日曜日)などのイベントを実施し、会期中に何度も博物館に足を運んでもらうことを期待した。

6 観覧者の反応
 観覧者のこの展覧会に対する評価について、いくつかの観点から述べる。まず、展覧会の最後の「私たちにできること」のコーナーには、畳位の大きさのメッセージボードを設置して、自由に意見を書いてもらった。ボードに余白がなくなると新しいものに換えて、前のものも別の場所に設置して読んでもらえるようにした。このボードには多くの人がメッセージを残し、会期が終わるまでに20枚にもなった。落書きは少なく、この展示により触発されたと思われる意見が寄せられ、中にはすでに書かれている意見に対して、さらに自分の意見を述べるといったものもあった。
 また、「カエルのきもち、私のきもち」というフォーラムを会期最終日の9月5日(日)に行うというポスターを展示室の出口に掲示した。これは、この展示に対する観覧者の意見表明の場として考え、あえて広報用のポスターやチラシなどには載せなかった。このフォーラムには60名の参加者があり、展示に対する意見よりは、その先のカエルを含む身近な自然をいかに守っていくかという話題に話が集中した。企画者としては、この展示の目的であるカエルの身になって身近な環境を見直すというメッセージは、かなり伝わったという手応えがあった。
 観覧者数をみるとこれまで当館で行った特別展の中では最も多かった。また、この展覧会に対するアンケートの結果によると、ねらいどおり「小学生とその親」に相当する10代と30代が多く見学していた。また、口コミの効果が大きかったことも示された。展示に対しては回答者の8割弱が「おもしろい」と答えており、全体的にもみて展示に対する満足度は高いといえる。

7 最後に
 冒頭で述べたように、この展覧会では特に小学生とその親がいっしょに展示を見て、その後で野外へカエルを探しに行きたくなるような気になることを目標とした。それは、この展覧会が夏休み中に開催されたということもあるが、博物館の中にあるバーチャルな自然は好きだが本物の自然には興味がないという子どもを増やしたくはなかったからであり、親には子どもの身近な自然環境についてもっと考えて欲しかったからである。少なくとも、この展示室の中でカエルに対する関心は高まったようである。その後、カエルを探しに行ってくれれば本当の成功と言えるのだが。とにかく会場は連日賑わっており、観覧者には楽しんでもらえたと自負している。
 この展覧会は会期中にも多くのマスコミでとりあげられたが、終了後も引き続き取材を受けた。この展覧会の解説書(1)は大変好評で会期中に全て売り切れてしまったのだが、その後、出版社からの申し出があり、翌年の7月には単行本として出版された(2)。また、展示に関わったスタッフの一部が中心になり文部省から委嘱をうけた「親しむ博物館づくり事業」を実施し、カエルをとりあげて教材を開発して、いくつかの小学校で「カエル教室」も実施した(3、4)。このようにこの展覧会終了後もカエルの波紋は広がっている(5)。

(引用文献)
(1) 尾崎煙雄・長谷川雅美 編 (1999) 『平成11年度特別展 カエルのきもち 展示解説書』 千葉県立中央博物館 163pp.
(2) 千葉県立中央博物館 監修 (2000) 『カエルのきもち』 晶文社出版. 117pp.
(3) 尾崎煙雄・小川かほる編 (2000) カエルを題材とした自然学習・教材の開発とその活用例・.
  千葉県立中央博物館親しむ博物館づくり事業実行委員会. 32pp.
(4) 尾崎煙雄・大木淳一 (2000) 地域の自然を生かした学習と博物館の役割 科学技術教育 39: 40-43. 千葉県立総合教育センター
(5) 尾崎煙雄・大木淳一・長川雅美 (2001) カエルがつないだ子どもたちと地域と博物館 Cultivate (13): 48-55.(株)文化環境研究所.
(6) 千葉県立中央博物館 (2000) 特別展「カエルのきもち」. 千葉県立中央博物館年報 (12): 41-42.
 
(注)「開館10周年記念特別展 カエルのきもち」
会期:平成11年7月3日(土)〜9月5日(日)
会場:千葉県立中央博物館 企画展示室 (千葉市)
入場者数:11,579名(開催日数56日)
主なスタッフは、当館生態学研究科を中心に長谷川雅美(企画・制作)、中村俊彦(制作統括)、山口剛(制作)、浅田正彦(広報)、大木淳一(展示デザイン)、尾崎煙雄(解説書編集)、大庭照代(ラナフォン)、平田和弘・奥田昌明・桑原和之(展示製作)である。より詳しい情報は、解説書(1)と年報(6)を参照されたい。

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